中学生の頃の夢は“海賊王”? 夢を持てないことがコンプレックスだった少女が、『地域活性化』に目覚めたワケ

「米子に足りないのは何かと考えたときに、人が集まる場所だと思ったんです。」

真っ白なシャツに身を包み、肩まである髪を後ろで束ねた彼女は、真っすぐな眼差しで応えてくれた。遠藤みさとさん、大阪の大学に通う22歳の女子大生がこの夏、米子で初めてのタピオカドリンク専門店『mecafe』をオープンさせた。現在、夏休み期間を利用して、8/109/16までの期間限定のチャレンジショップとして営業を行っている。遠藤さんは阪南大学経営情報学部の3年生。大学では起業について学び、今回のアイデアもゼミの仲間とともにブラッシュアップしてきたという。

客足が落ち着いた今では1日に100件程度という事だが、人の流れは途絶えることがない。オープン当初は一日に300杯以上、多い時では450杯のタピオカドリンクを提供した。初めの頃は、慣れない販売や接客に戸惑い、お客を待たせしてしまう事もしばしば。それでも、日を追うごとに手際よくできるようになり、一緒に店を手伝ってくれる高校の同級生2人と共に何とか回せるようになっていった。

1杯あたり500円前後の価格帯で、売りは何と言っても白バラ牛乳をつかった濃厚なミルクのおいしさ。黒糖やほうじ茶ラテ、カシス、抹茶など約10種類のバリエーションから好みの味を選ぶことができ、若者だけでなく、幅広い世代に受け入れられた。

情報発信にはインスタグラムを使用。かわいらしい牛のイラストが描かれたカップに注がれた色とりどりのドリンクたち。訪れた高校生や女性客によってアップされ、拡散されていくとたちまち口コミが広がった。目標にしていた2,000杯を早々に売り上げ、販売目標は上方修正され続けている。

それにしても、なぜこの米子でやろうと思ったのだろうか?

若い人たちが県外に出ていってしまう現状。高校卒業後、約7割の学生が県外へと進学し、戻ってこないという。周りの友達、自分の経験から思いを巡らせ、米子でなんかできんかなー?と思っていた。

「どうやったら皆が満足する街になるんかなー?人が集まる所を求めてるんじゃないかなー?」

モノは何でもよかった。そんなとき、友人のツイートで、あのタピオカ屋さんが米子にあればなーと呟いてたのを目にした。とりあえず、今ここに暮らす人たちが満足する事はこれだ!即決した。

店舗デザインについては、あらかじめ構想を持っていた。若い女性の心をつかむような“映える”スポットに。東京でデザイン関係の仕事をしている仲の良い同級生にお願いし、看板の寸法もセンチメートル単位で細かく伝えた。打ち合わせは主にメールや電話だったが、埒が明かない時には、遂に大阪と東京の中間地点の名古屋でのミーティングを強行したこともあった。

そんな行動力で突っ走る遠藤さんだが、もともとやりたい事があった訳ではなかった。子供の頃から夢らしいものを持ったことがなかった。中学の頃、将来の夢を聞かれ、当時ハマっていたワンピースの影響から、「海賊王」と答え、学校から親に連絡が入ったという。やりたいことが明確でしっかり者の姉と比較され、夢がないことがずっとコンプレックスだった。

自分の意識が変わったのが『さんいんアフタースクール』※。そこには今まで知らなかった面白い大人たちがたくさんいた。地元企業の人がこんなに頑張っているんだ。学生も楽しそうにしていた。自分もこういうふうになりたいな。もっともっとこういう取り組みが広がるといいなと感じた。―これが大きな分岐点となった。

※『さんいんアフタースクール』山陰効果団地+BEANS らが企画する高校生×地元企業との交流型ワークショップ。20193月に行われたビジネス編には、鳥取県西部の高校生約20名が参加し、互いに大きな刺激になった。その後、女子高生が考案したカレーが商品化されるなど、新たな展開を見せている。

 ―心に残っているエピソードは?

オープンしたばかりの頃、お釣りの10円玉がなくなってしまって(!)、足りませんっていう情報をインスタグラムに発信したところ、家中の10円玉をかき集めて買いにきてくれた小さな子とお母さん、他にも多くのお客さんが小銭の補充に協力してくれたことが本当にありがたかった。

そして、新聞やテレビで報じられることで、多くの人から共感や応援の声が届くようになった。

「地域活性化に興味があるんです!と境高校の3年生が会いに来てくれました。」

嬉しそうな表情で語る遠藤さん。“ここは私の場所だ“と思ってもらえるようにとお店の名前を『mecafe』と決めたが、ここを訪れた人の中には、自分のやりたい事に出会えた場所、ひと夏の期間限定ではあるが、ある意味での本当の居場所を見つけられた人も現れた。

 商店街、という地方都市の車社会においては圧倒的に不利と思われる場所でも、アイデアとタイミング、そして小さな覚悟とささやかな想い、さらにそれを応援したいという『輪』のように広がる周囲のサポートがあれば、それまで誰も思いもしなかった成果を生み出すことができる。奇跡と呼んでも差し支えのない、何かとてつもなく凄いことが、ここ米子で、今目の前で起こっているのではないか?そんな事を感じながらこの挑戦を見守ってきたが、ここまでの順調なお店の繁盛ぶりを見ると、今後の展開についても気になってくる。

―これからのこと

もっと、何かやりたいという気持ちが芽生えてきた。大学生のうちに何かできたらいいなと。まずは自分が成功例になろう。そしてそれを伝え、後に続く人を育てていこう。同じように問題を抱えてたり、自分の地元でこんなことしたい。お互いの地域でコラボできたりすると、さらに面白い展開が期待できる。

今後の進路についてはまだ決まってないという。資格を取って、大学院へ進むか。でもそのためにはまず実務経験を積むか。はたまた今回の実績を活かし、起業の道もありか。今は悩める時、精一杯悩んで欲しい。

―高校生へ、そして自分と同じようにチャレンジしたいという若い人へ

自分も、知らないことがとても多かった。高校生のうちに地元の企業のことを知らないと、その機会を持たないまま県外に出てしまう。若い人にもっと当事者意識を持ち、勉強ばかりでなく、企業を知る機会やワークショップなどにも積極的に参加して視野を広げてもらいたい。米子にも可能性がある。長い目で見た地域活性化、いずれ米子に帰ってきたときに自分にもできると思える場所を作りたい。
米子だからこその人のつながり、やさしさがあるけど、それはどこにでもある当たり前のことでは決してない。まずは自分の興味のあること、やりたいことを勉強して、それを活かしていろいろな事にもチャレンジして欲しい。

 の取り組みをやり切った先に、彼女はどんな想いを繋げるのか?この夏、この大学生が起こした小さな奇跡が、これからの僕らの街にどんな影響を与えてくれるのか。引き続き、この界隈から目が離せない。

(写真・文 永見 陽平) 

住所:鳥取県米子市法勝寺町70 DARAZ CREATE BOX
営業時間:11:30-18:45

期間:2019.8.10-9.16(期間中定休日なし)
URLhttps://www.instagram.com/mecafe_yonago/
行き方:https://www.instagram.com/p/B043cZ5h6-Y/?utm_source=ig_web_copy_link

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