『パブリック・ジャーナリズム』って何?

 この度、ギャラクシー賞に続いて、第46回 日本ケーブルテレビ大賞 番組アワードにおいて、中海テレビ放送制作のドキュメンタリー番組「中海再生への歩み~市民とメディアはどう関わったのか~」が、初の「パブリック・ジャーナリズム特別賞」を受賞した。  この“パブリック・ジャーナリズム”という言葉、聞いたことがあるような、ないような。わかるようでわからない言葉だ。

日本ケーブルテレビ連盟『パブリック・ジャーナリズム特別賞』

日本ケーブルテレビ連盟『パブリック・ジャーナリズム特別賞』

 メディア論を専門にする上智大学文学部新聞学科教授の音好宏先生からご紹介いただいた、元共同通信社論説副委員長で、上智大学の新聞学科長も務めた藤田博司先生の論文によると、パブリック・ジャーナリズム(ないしシビック・ジャーナリズム)という概念は1990年代のアメリカ、特に地方都市で、メディア企業の第四の権力化、ジャーナリストのエリート化など、既存の主流はジャーナリズムへの批判・不満から生まれたようだ。

 特徴として挙げられるのは、一般市民や地域社会と密接な関わりを持ち、フォーラムや集会などの対話を通じて市民と一緒に地域の課題や問題を解決していくその姿勢である。一方で、客観・中立公平性を絶対視しないため、既存の主流なメディアからは批判も受け、当時の「New York Times」は社説でパブリック・ジャーナリズムを客観報道の原則を損なうと批判している。

 

さて、取材の現場としてはどうかと言うと、はじめからそのような意識でやっているわけではなく、ただ「今この目の前にいる人と一緒に、この問題をなんとかしたい」という想いだけでどうにか20年やってきたのだと思うが、音先生からは、実践が理論に近寄っていったと表現して頂いた。

(個人的には、「関係人口」でおなじみ、元山陰中央新報の田中輝美さんの提唱する“その地域で暮らし、地域から発信する”ローカルジャーナリストという考え方により近いものを感じている)

 先日、中海テレビ放送の三浦放送事業本部長とNHK報道局の熊田ネットワーク報道部専任部長とのオンライン対談が行われた。

https://townwithtv02.peatix.com/

 

 2時間以上に渡る対談であったが内容はとても面白く、勉強もなった。ただ、一か所だけ違和感を持って聞いた部分があった。熊田氏は話の中で、まさに先ほど触れた客観性を問題視されている様子で、対して三浦はそのあたり当初は迷いも感じつつも、結局は一緒に汚れてしまった中海をなんとかしたいと考えている仲間なんだからと、あっさりと客観性の壁を取り去っている。時に伴走し、応援し、一緒に行動を起こし、汗を流す。そして何より、この地域に一緒に暮らしているという事実。人口の少ないエリアということもあるが、『中海・宍道湖・大山圏域』と言われるように、どこかに一つ屋根(大山)の下という感覚がある。先程の議論では、2人の議論がうまくかみ合わず、対談の配信を見ていた視聴者からもチャットでヤジ(?)が飛んだほどだった。

 かつてYouTubeもない頃に、日本で初めて『パブリック・アクセス・チャンネル』という市民投稿型のチャンネルをつくり、草の根の市民活動を応援してきた中海テレビ放送。入社前、「メディアを市民の手に取り戻す」という言葉にいたくシビれた事を懐かしく思い出す。30年前にこの会社ができて以来、この姿勢は一貫して持ち続けてきたし、今後もこのローカルで働く限り、変わることのない行動指針のようなものだ。

 また、今回の受賞の知らせは、全国のケーブルテレビで働く人にとっても驚きをもって迎えられた事と思う。というのも自分自身、新入社員で報道部に配属され、あちこち取材に回る中で、「なんだ、ケーブルか」と半分バカにしたような態度の方に出会う事も少なくなかった。その度に、「なにくそ!」と反骨心を燃やす反面、ここで働く自分たちの中にもある、そんな劣等感を拭えなかった。

 今回の受賞はケーブルテレビでもできる、むしろケーブルテレビだからできるという誇りを得る事ができた。まちづくりの文脈で、シビック・プライドという「都市に対する誇りや愛着」を指す言葉があるが、これになぞらえて『chukai pride』と呼びたい。

 ソトコト編集長の指出一正さんによると、ローカルに目を向け、関心をもっている若い人は、そこに‟関わりしろ”を求めているのだという。ツルツル、ピカピカのものより、ザラザラとした手触りのものに魅力を感じている。都会/地方という話ではなく、そのまちとどう関わるか、どうやって面白がれるか。これからも、ケーブルテレビという道具を使って、まちとそこに暮らす人との‟関わりしろ”をつくっていきたい。

【参考文献】
コミュニケーション研究 第27号〈研究ノート〉パブリック・ジャーナリズム : 米報道改革の試みをめぐって

https://digital-archives.sophia.ac.jp/repository/view/repository/00000016306

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